山西雅子『沙鷗』(ふらんす堂)

『沙鷗』は、山西雅子さんの第二句集。2009年8月、ふらんす堂発行。

中田剛さんの栞文によると、句集名の「沙鷗」は、杜甫の五言律詩「旅夜書懐」の最終行「天地一沙鷗」から取られたとのこと。とても良い句集名である。

 

板の間に蝶の映れる極暑かな

障子を開いた和室の板の間に、外を飛んでいる蝶の姿が映っている。「極暑」の強い日差しと室内の薄暗さが感じられる。芥川龍之介の〈蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな〉を連想した。

 

藤の香のせり上がりくるなぞへかな

「なぞへ」とは斜面のこと。山中にいて、藤の香が強く漂ってきたのだろうか。「せり上がりくる」という強めの把握が、藤の香に全身が包み込まれるようで面白い。

 

石鹼玉まだ吹けぬ子も中にゐて

川底の木の葉ふたたび流れだす

封筒の中の冬日のただ遠く

宵山に買うて端切れの美しき

種芋へ神学校の午後の鐘